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回路設計を目指す方へ!その仕事とスキルとは?

ここでは製品開発おける電気回路設計者の仕事や必要なスキルについて紹介します。製品よって開発期間や重視する項目は異なりますが基本的な開発な流れは変わりません。参考にしていただければ幸いです。

製品開発の仕事は、企画開発生産販売という流れで進みます。

企画:市場や顧客のニーズを分析(マーケティング)し、売れる製品を考える

開発:企画で決めた製品に対する要求を満たす要件を定義し技術を駆使し設計する

生産:製品を生産するためのライン設備を作り、計画に基づいて生産をする

販売:生産した製品を販売し、市場クレームや要望を企画や開発にフィードバックする

ここでは、ビジネス電話機の開発を例に回路設計者の役割や仕事内容、必要なスキルについて解説します。

ビジネスホンの開発(左側)

開発業務の流れ

開発業務は企画書から製品の仕様を考え、その仕様書を基に設計を行います。試作品を作成し、評価や試験を行い、改善点を設計にフィードバックします。そして、次の試作品を作成し、問題ないことを確認するなどして開発を進めていきます。

回路設計は試験・評価試験を行いながら、回路を修正したり改善したりして進めます。試験や評価結果から回路を改善・改修する場合はDR(デザインレビュー)を行います。DRで設計変更内容が問題ないかを判断します。問題なければ、次の試作品(2次試作品)の作成に進みます。

製品によって、開発期間や試作品を何回作成するかは異なります。人命にかかわる製品など、特に安全性や信頼性が必要な製品ほど、試作品の評価・試験・検証をする回数は多くなります。

上記の流れを開発工程のプロセスで置き換えると、以下の流れになります。

構想設計

ここでは、構想設計の仕事と求められるスキルについて紹介します。

企画部門からの製品企画書を基に設計に必要な要件を定めます。そして開発に必要な規格や特許、コストや品質などの条件を明らかにして製品全体の構想を決定します。

🔵具体的な仕事内容

電話機の開発を例にすると、通信規格や安全規格、関連する特許などの調査。企画を満足するための機能を明らかにし、必要なデバイス(CPUや液晶など)の選定。開発から製造(量産)にいたるまでのスケジュールや、必要なコスト(開発要員やモノなどの経費)の選出など。全体構想を考え製品仕様書(企画書)にまとめます。

🔴求められるスキル

豊富な製品知識

構想設計に求めれられるスキルは、製品(今回は電話機)に対する豊富な製品知識です。例えば電話機開発に必要な規格や機能など、開発から量産に至るまでの必要な要件を定めるには豊富な製品知識と開発経験が必要です。

☞プロジェクトマネジメント

また、開発から製造(量産)にいたるまでのスケジュールや、必要なコスト(開発要員やモノなどの経費)などを決め判断をしていくなど、プロジェクトマネジメントのスキルが必要です。

リーダシップを発揮し、プロジェクトのメンバーへのチームビルディングなどを行いながらプロジェクトを遂行できる人間力や、企画部門や製造部門、営業部門との調整力も必要となります。

基本設計

ここでは、基本設計の仕事と求められるスキルについて紹介します。

製品仕様書(企画書)を基に必要な機能や実現方式を考え機能仕様書を作成します。機能仕様書は、必要とする各機能をブロックに分けます。そして実現方式や構成を考えながら仕様書を作成していきます。

🔵具体的な仕事内容

電話機には、通話、液晶で文字を表示、回線と通信など必要な機能があります。これらの機能をブロックに分け整理し、実現するための回路方式を考えます。

<機能ブロックのイメージ>

表示部:液晶などで画面表示する機能ブロック

通信部:電話機と電話回線との通信する機能ブロック

音声部:受話器やスピーカから音をだす機能ブロック

制御部:表示部、通信部、音声部の各機能を制御する機能ブロック

回路方式を決めるとは、例えば表示部では製品仕様を満足する液晶(LCD)や液晶を制御するデバイスを決め、回路として必要な条件を決めていくことです。例えば製品仕様で要求事項は、画面サイズや画素数、表示できる文字数などです。

例えば、制御部であれば、各ブロックの機能を制御するマイコンやデバイス、必要なメモリ(記憶量)などの選定を行い、回路に必要な条件を決めていきます。※マイコン:マイクロコンピュータ

このように製品仕様を基に各機能を実現するために必要な方式を考えます。そして機能仕様を作成することが基本設計の仕事になります。

🔴求められるスキル

☞幅広な回路設計の経験

本業務に求められるスキルは、豊富な回路設計の経験が必要となります。機能を実現するために必要な回路方式を決めるには、アナログ回路、デジタル回路、マイコン回路、FPGAを使用した回路、電源回路、通信回路などなど、設計経験があればあるほど、より優れた回路方式を考えることができます。また最新技術動向を常にキャッチアップすることも大切です。最新のデバイス情報や開発ツールの情報を収集し、開発に必要な最新知識を常に保有していることが求めれます。

詳細設計

ここでは、詳細設計の仕事と求めれらるスキルについて紹介します。

機能仕様書を基に機能を実現するための条件(詳細数値やパラメータ)を決めます。そして、その条件を満足する回路設計や基板設計を行います。

🔵具体的な仕事内容

回路設計の流れを以下に示します。

回路設計には機能を満たすための全体回路の設計と、FPGAやLSIなどの機能を実現するためのデバイスの回路設計があります。

全体回路の設計はFPGAもLSIも全体回路の1部品となります。

また、CADで回路図の作成や、回路図を基に基板を作成します。

回路設計

機能仕様書を基に、機能を回路で実現するためのハードウェア仕様書を作成します。仕様書をもとに必要なIC(デバイス)の選定、抵抗、コンデンサ、インダクタなど部品を使用して、数値やパラメータを決めながら回路図を作成します。

FPGA設計

機能のなかで、比較的規模が大きな論理演算などが必要な場合はFPGA(デバイス)を使用する場合があります。RTL記述言語(HDL:VHDL、Verilog)などのプログラム言語で回路設計を行います。

回路設計者が設計する場合もありますが、規模の大きい回路の場合は、設計会社に委託する場合もあります。

※FPGAを使用するメリット

 出荷後に市場で不具合が起きた場合にプログラムを変更することで対応が可能となります。

LSI設計

ASIC設計とも呼ばれています。FPGA同様に大規模な集積回路には、LSI(ASIC)を使用します。プログラムでの設計はもちろん、FPGAとは異なり、アナログ回路も集積できるので、アナログ回路が必要な場合は、LSI(ASIC)を使用します。

LSIの設計プロセスにはノウハウや専門知識が必要のため、多くはLSIメーカに委託をして設計することがほとんどです。

※LSIを使用するメリット

部品コストが安いです。量産する製品は、FPGAよりもLSIを使用した方がコストメリットがあります。しかし、完成するとFPGAのようにプログラム修正で改修をすることができません。このため、市場で不具合が起きた場合のリスクは大きくなります。

基板設計

回路図が完了後、実際の基板を作成するための設計業務です。多くは基板設計会社に設計を委託し、納品してもらいます。CADの回路図データを使用して基板設計用のCAD(下図)で電気信号線(パーターン)の配線設計(アートワーク)を行います。そして配線設計が完了したら、基板データから基板(下図)を作成します。

<回路図から基板作成のイメージ>

基板設計会社に委託した場合は、部品実装も同様に委託する場合もあります。FPGAやLSIなども委託会社へ渡して基板に実装します。

<部品実装された基板>

基板評価

部品実装された基板が完成したら、基板の単体の評価(デバック)を行います。設計した回路が詳細仕様通りの結果が得られるかを評価を行います。この時、オシロスコープやロジックアナライザー、スペクトルアナライザーなど各種測定器を活用し、電気的特性などを評価します。

<基板単体評価イメージ>

設計値通りの結果が得られない場合は、パラメータや回路変更を行い回路を修正します。基板は最初の1次試作品から、評価(デバック)の結果を反映した2次試作品など、生産までに仕様通りの結果が得られるまで、試作品を作成し評価を行います。

開発スケジュールは決まっています。期間内(納期)に基板が仕様通りの結果が得られる状態にする必要があります。製品によって開発スケジュールは異なります。私が経験したビジネス電話機は、3冶試作まで考慮した開発スケジュールでした。製品によって何次試作まで作成して評価をするかは異なります。

🔴求められるスキル

◉回路設計について

☞アナログ、デジタル、マイコン周辺の回路設計スキル

一般的にアナログ回路、デジタル回路、マイコンと周辺回路などの設計スキルが必要です。

回路の規模によって、機能ブロックごとに設計者が分担して回路設計します。今回のような電話機の回路規模であれば、一人で設計する場合が多いです。

電話機を例にすると、

アナログ回路:受話器のマイク(センサー)やスピーカなどの音の増幅回路。回路に供給する電源回路など。

デジタル回路:液晶をドライブする回路やボタンなどSWを制御する回路など。

マイコン、周辺回路:マイコンと制御するデバイス(ic)の回路。メモリ(RAMやROM)とのインターフェースをする回路など。

回路設計CADツールのスキル

回路図はORCADやCR8000などの電気系CADを使用して作成します。

☞回路シュミレーションスキル

アナログ回路はP-SPICEなどの回路シュミレーションを使用する場合がります。P-SPICEで回路定数(パラメータ)をシュミレーションし設計を行います。これらのツールを活用できるスキルも必要となります。

◉基板設計について

☞アートワークのスキル

基板設計は回路設計にとって非常に重要です。製品や回路の性能は基板設計の良し悪しで左右されます。基板設計が悪いと基板から不要なノイズを発生してしまったり、外部のノイズの影響で誤動作したりもします。

基板設計は、基板の寸法、部品のレイアウト、電気信号(パターン)の引回し(結線)方法などノウハウが必要です。アナログ信号とデジタル信号を分離したり、高周波の信号(パターン)に対しては、特別な引回しが必要など、多くの注意点やノウハウが必要となります。

設計者は、基板設計会社に委託をする場合は、部品の寸法やレイアウト以外にも、これらの注意点やパターンの引回しの指示など、基板設計仕様書を作成します。

特に高周波信号を扱う回路では基板設計の難易度が高く、ノウハウも必要となります。基板設計が悪いと性能が発揮できなかったり不具合が発生します。性能を発揮するためには、しっかりとした基板設計が必要です。

◉基板単体評価について

☞評価及び各種測定器の操作スキル

単体評価は、設計した回路が仕様通りの動作や電気的特性を満足するかを確認します。評価をするための評価仕様書を作成します。

オシロスコープやロジックアナライザーなど、電気測定器を使用して評価を行います。このため基本的な電気測定器の操作はもちろん、評価環境を構築するスキルは必要です。

設計した回路が正しいかを確認をし検証することで設計スキルが向上します。回路設計と評価を繰り返し行うことでスキルアップをしていきます。

☞マイコン評価環境構築のスキル

マイコンが使用される回路は、マイコンのソフト開発環境作りも必要となります。ソフト開発用のエミュレータを基板に接続し、ソフト開発者がエミュレータからマイコンをプログラムで動作させ、基板(回路)上で動作や機能を確認しながらプログラム設計をしていきます。

プログラム設計が完了したら、マイコンのプログラム格納用のメモリ(ROM)にプログラムをダウンロードすることで、基板単体(エミュレータが無い状態)で動作するようになります。

※本サイトでお勧め記事はこちら!

回路設計者はここを目指せ!売れるスキルはこれ!

評価・試験

ここでは、評価・試験の仕事と求めれらるスキルについて紹介します。

製品が仕様通り動作すること、出荷しても問題なく安全に動作することを確認する評価や試験です。

🔵具体的な仕事内容

基板単体評価が完了後、基板を製品に組込み、製品としての機能や動作確認を行います。そして、様々な環境下で安全に動作するかを確認するために安全性試験や信頼性試験を行います。

◉機能動作確認

製品としての機能を確認します。機能仕様を満たす動作をすることを確認します。例えば、今回のビジネス電話機であれば、通話特性、液晶画面の輝度や文字、スピーカや受話器の音量、電話番号のボタンや受話器のフックの感度などなど、電話機としての機能が全て正常に動作することを確認します。

◉安全性試験

環境の影響や使用方法に対して、製品を扱うユーザーを感電、傷害、火災、爆発などの事故から保護するための確認試験です。試験は安全性試験の国家規格IECや、それを基にした各社基準を基に試験を実施します。以下に代表的な試験を記載します。

☞オープンショート試験

回路の部品のピンをショートやオープンにした時に製品が発火や発煙などなく安全かを確認。発火や発煙があった場合には、回路修正を行い改善を行い

ヒートショック試験

製品を-40℃⇔+85℃の温度サイクルのなかに設置し、製品に故障がないかを確認。サイクル数や設定温度は製品の基準によります。ヒートショック試験器を使用して試験を実施します。故障があれば改善が必要です。

誤接続試験

製品に接続されるケーブルを間違えて接続されたときに発火や発煙などがないことを確認。発火や発煙があった場合には、対策を行います。

絶縁耐圧試験

電源の一次側(電源)と二次側(人が接続する部分)に高電圧(1000V)を一定時間(1分)印加しても製品が絶縁状態を維持し絶縁破壊しない事を確認。絶縁耐圧試験を使用して確認します。

◉信頼性試験

製品が市場に出荷されたとき、様々な環境下で故障せず、正常に動作することを確認するための試験です。例えば、電話機であれでば、室温50℃、湿度80%の高温多湿の場所やー10℃の低温室な環境でも故障しないで動作するか、あるいは人が持つ静電気に対しても誤動作せずに動作するかなどを確認するための試験です。

恒温試験

高温多湿、低温状態を作り出すことができる恒温層に製品を設置し、製品が故障や誤動作をしないことを確認する試験です。※恒温層は+50℃ 湿度80%、-20℃の環境を作りだすことができます。

静電気試験

製品に静電気を印可し、製品が故障や誤動作をしないことを確認する試験です。静電気試験機は6kV~15kVなど高い電圧を発生することができ、規定値の電圧を製品に印可し確認します。

雷試験

落雷があった場合に想定せれる電圧を製品に印可し、製品が故障や誤動作をしないことを確認する試験です。雷試験機も数十kVなど高い電圧を発生することができ、規定値の電圧を製品に印可し確認をします。

AC瞬断試験

瞬間的に電源が供給されない場合が発生した時に、製品が故障や誤動作をしないことを確認する試験です。瞬電試験機はmsecオーダーで供給電源を瞬断できる試験器です。瞬断時間は製品の規格や基準値によります。

EMC試験

主に、製品自体から不要な電波を発生して他機器に影響を与えないことを確認するエミッション測定と、電源ノイズなど、予期しない不要なノイズを製品の電源系などから印可するなどのイミュニティ試験があります。

🔴求められるスキル

☞試験機操作や試験環境構築、適合規格や基準など

各種試験を実施するための環境構築や試験機の操作方法。また基準や規格を理解して試験を実施し、判定や結果、データ整理を行い報告書を作成するなどの基本スキルは必要です。

☞対策スキル

試験で誤動作や故障した場合の原因を明らかにし対策するスキルも必要です。回路に対策に必要な部品や回路を追加するなど、安全性・信頼性試験に耐えうる回路とします。

これらの対策スキルは、経験を重ねなければ知識を習得することができないため、とてもノウハウが必要な高いスキルです。高速信号を扱う製品や、様々な回路基板(ボード)を扱う装置、医療製品など、これら信頼性試験への技術課題は年々増えています。

回路設計者として、これら信頼性試験への対策スキルを保有していることが益々必要となってきています。また、初段の設計で信頼性試験に強い回路を設計することができれば製品の開発期間を短くすることにも繋がります。

まとめ

ご紹介した内容は製品開発において回路設計者に求められる基本的な仕事とスキルです。製品によって、開発期間や試作品の回数、必要な信頼性試験の種類は異なります。様々な製品に携わり、多様な回路を経験することが、回路設計者としてキャリアアップに繋がります。本記事が参考になれば幸いです。