インピーダンスと抵抗の違いって何?
回路設計者には避けては通れないのがインピーダンスです。その原理や動作が抵抗と何が違うのか?回路設計におけるインピーダンスの活用方法などをお伝えします
インピーダンスと抵抗の違い?
電気回路には「抵抗」と「インピーダンス」という2つの大切な考え方があります。まず、抵抗とは、電気の流れ(電流)が進むのを邪魔する性質のことです。
たとえば、水が細いパイプを通るときに流れが遅くなるのと似ています。抵抗は、電気エネルギーを熱に変えてしまうため、エネルギーのロスが起こる原因にもなります。抵抗の大きさはオーム(Ω)という単位で表され、直流(DC)の電気回路では、この抵抗だけで電流の流れが決まります。
一方で、インピーダンスは、交流(AC)の回路で使われる、電気の流れを邪魔する全体的な力を表す言葉です。インピーダンスは、ただの抵抗だけでなく、リアクタンスという、電気回路に含まれるコンデンサ(蓄電器)やコイル(電磁石)などが持つ、電流の変化に対する抵抗力も含んでいます。
リアクタンスは、電気の流れに「遅れ」や「進み」の違いを生み、電圧と電流のタイミング(位相)に影響を与えます。たとえるなら、直流ではまっすぐに流れる川のような電流が、交流では渦巻いたり曲がったりする様子をイメージしてみてください。
つまり、直流回路では抵抗のみが問題となりますが、交流回路では抵抗に加えてリアクタンスが加わり、その合計がインピーダンスとなります。
インピーダンスは複雑な数字(複素数)で表され、実数部分が抵抗、虚数部分がリアクタンスを示しています。抵抗は「電気の流れを邪魔する力」、インピーダンスは「交流における、電気の流れ全体を邪魔する力」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
もう少しくわしく解説
インピーダンスと抵抗は、電気回路における電流の流れを妨げる性質を示すという点では似ていますが、適用される状況や考え方が異なります。
抵抗について
まず、抵抗は、主に直流(DC)回路で使われる概念です。抵抗は物質が持つ、電流の流れに対する単純な妨げの度合いを表し、オームの法則(V = IR)で説明されます。
ここで、Vは電圧、Iは電流、Rは抵抗です。抵抗はエネルギーを熱として放出するため、電力損失の原因にもなります。
インピーダンスについて
一方、インピーダンスは、主に交流(AC)回路で重要な概念です。交流回路では、回路にコンデンサやコイルなどの素子が含まれることが多く、これらは電流と電圧の間に位相差(タイミングのずれ)を生じさせます。
このような位相差を考慮する必要があるため、単なる抵抗だけではなく、リアクタンスという概念も導入されます。リアクタンスは、コンデンサやコイルが持つ交流に対する「抵抗」のようなもので、コンデンサの場合は周波数が高いほど抵抗が小さくなり、コイルの場合は周波数が高いほど抵抗が大きくなります。
インピーダンスは、これらの効果をひとまとめにして表現するため、複素数で記述されます。複素平面上では、実数成分が純粋な抵抗(R)を示し、虚数成分がリアクタンス(X)を示します。つまり、インピーダンス Z は以下のように表されます。
Z=R+jX
ここで jは虚数単位であり、X はコイルやコンデンサによるリアクタンスの合計です。また、インピーダンスの大きさは
∣Z∣=√R²+X²
という式で求められ、これにより電流の大きさや位相が決定されます。
まとめると、抵抗は直流回路における単純な電流の妨げであり、インピーダンスは交流回路での電流の流れ全体を示すより複雑な概念です。
インピーダンスは、抵抗成分とリアクタンス成分を組み合わせたものであり、交流回路における電気的特性を正確に理解するために必要な概念となります。
回路設計者が押さえるべきポイント
回路設計者を目指すエンジニア向けに、抵抗(Resistance)とインピーダンス(Impedance)の違いを実務に直結する観点で整理します。
1.基本の整理:DC(直流)とAC(交流)の視点
抵抗(R)
抵抗は電流の流れに対する単純な“摩擦”です。オームの法則 V(電圧)=I (電流)×R (抵抗)が成立し、直流回路でそのまま使えます。単位はオーム(Ω)。抵抗は電気エネルギーを熱に変換します
消費電力 P=VI=I²R
インピーダンス(Z)
インピーダンスは交流回路での“総合的な妨げ”です。抵抗に加え、コンデンサやコイルが示すリアクタンス(X)を含みます。複素数で表され、
Z=R+jX
実数成分が抵抗、虚数成分がリアクタンス(誘導性なら XL>0、容量性なら XC<0)です
2.周波数依存性が最重要
抵抗は(理想的には)周波数に依らず一定ですが、インピーダンスは周波数で大きく変わります
- コイル(インダクタ): XL=2πfL→ 周波数が上がるとインピーダンス増加
- コンデンサ: XC=1/2πfC→ 周波数が上がるとインピーダンス減少
ある周波数帯での振る舞いを設計するなら、Rだけでなく XLや XCを計算して合成インピーダンスを評価する必要があります。
3.位相(フェーズ)の概念と電力
インピーダンスは位相を伴います。位相角 ϕ=\atan(X/R) により電圧と電流の時間的ずれが分かります。これが実効的な電力処理に影響します:
- 実効電力(有効電力) P=VIcosϕ
- 無効電力(リアクティブ) Q=VIsinϕ
回路の効率や電源設計、フィルタ設計では有効/無効電力の区別が重要です。
4.実務でよく出る設計・評価課題
☞インピーダンス整合(マッチング)
高周波回路や伝送ラインではソースと負荷のインピーダンス整合(例:50Ω)が重要。整合が取れていないと反射やロスが発生します。最大電力伝達は複素共役マッチング(Zload=Z*source)
☞デカップリング設計
ICの電源ノイズ対策では、周波数ごとに適切な容量を選び、寄生インダクタンスも含めた等価インピーダンスを下げることが目的です。
☞フィルタ設計
フィルタはインピーダンスの周波数依存性を利用。素子選定は目標特性(カットオフ、Q値)に直結します。
☞アンプの入出力インピーダンス
入力インピーダンスはソースへの負荷(信号振幅)に、出力インピーダンスは駆動能力(負荷への影響)に関係します。ブリッジ接続(高インピーダンス入力)やマッチング回路(低インピーダンス駆動)を適切に使い分けます。
5.簡単な数値例(設計での感覚を養う)
コイル L=10 μHで、f=1 MHzの時のインピーダンスは
XL=2πfL=2π×1MHz×10μH≈62.8 Ω
コンデンサ C=100 nF で、f=1 kHzの時のインピーダンスは
XC=1/(2π⋅1kHz⋅100nF)≈1.59 kΩ
→ 同じ部品でも周波数で扱いが全く変わることが分かります。
6.PCB(基板)設計での注意点(寄生を忘れるな)
配線長、パッド、ビアには寄生インダクタンス・容量が出ます。高周波ではこれらが回路性能を左右します。デカップリングはICの近傍に置き、グラウンドリターンを最短にするなど、PCB(基板)設計には注意が必要です
まとめ
抵抗だけで回路を考えるのはDCや低周波の限定的なケースのみです。周波数軸を常に意識して、 合成インピーダンス(実数・虚数)で評価する癖をつけましょう。
インピーダンスは設計(部品選定/回路トポロジー)、測定、レイアウト(寄生対策)の三位一体で改善することができます。
「数値で感覚を持つ」ことが重要です。設計段階で周波数での XL,XC,∣Z∣ を必ず計算・確認をするこが大事です。
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